2013-10-16

肝臓さん

生命ふたたび(5)
─ある頸椎症患者の記録─

−肝臓さん−

手術の翌日、11日のお昼、おかゆが出た。軟らかい野菜が添えてある。少しずつ喉に流しこんだ。手術の時に喉に差しこんだ管の傷跡が痛い。飲みこむのが大変だったが、体力をつけるために必死に胃に流しこんだ。

肝臓の治療については、毎週、治療してくださっている松浦知和先生から、岡院長先生へメッセージが伝えられていた。そのメッセージが徹底されていて、「生理食塩水」100�に「強力ミノファーゲン」40�を混ぜて、朝夕2回、点滴していただいた。

手術から4日後の日曜日の夜、突然、体にひどいじん麻疹が出た。月面のクレーターのような赤いでこぼこが、全身に出た。ものすごいかゆみである。若いナースの方が、私の体の異常に気づくと、すぐ院長先生の下に走った。院長先生のすばやい処置、「生理食塩水に強力ミノファーゲンを混ぜた点滴」を、3時間かけて静脈に流しこんだ。それから少しずつかゆみが治まり、完全にじん麻疹が消えるまで10日間位かかったが、きれいに消えた。

退院前に採血した検査結果ではGOT、GPTがともに60台に、血小板7万2千に回復していた。手術による全身麻酔イコール肝不全の危険性など間接的に聞き、心配をしていたが、これは「杞憂」であった。

3月1日、岡院長先生のご説明を受けた後、麻酔科医の中田先生の部屋に呼ばれた。私の関心事は、手術での肝臓のダメージによる肝機能の低下、血小板が少ないことの出血などについて、専門医の立場から説明していただくことにあった。

私は単刀直入に先生にお聞きした。「私のような悪条件の患者の場合、このような手術は可能でしょうか?」彼は、岡院長先生と同じように、確信に満ちて「大丈夫です」と、まず答えてくださった。
「うちの院長先生の場合、頸椎症のオペではほとんど出血しません。しかしあなたの場合、ひょっとしたら100�、あるいはもう少し出血があるかもしれません」。
「事前に自己血液の保存は必要でしょうか?」「いや、大丈夫です」
「血小板の補充は?」「コストが高くつくし、その必要はありません」。
短い質問に短く、明快な回答が与えられた。

──さあ、全ての準備は整った。4月10日よ、早く来い!
待ち遠しい日になった。この日から、つまり3月1日から4月10日までの40日間が、私にとって一つの闘いになったことも事実である。
痛みに耐え切れない場合の緊急手術のことも含めて、70年間の私の人生の総決算が与えられた。我が人生の心構えを、その日が一変することになろうとは、その日以前考えつかなかった。

(つづく)

「生命ふたたび」(2003年6月1日発行)より

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