生命ふたたび
─ある頸椎症患者の記録─
−ICU(回復室)にて−
尿管が差しこまれているとも知らずに、オシッコが出たくて痛くて思わず声を出した。小さな子供のように、「オシッコがもれるよう!痛いよう!」
寝ずに看護を続けてくださっている看護副部長さんが「大丈夫。もれないから」と、何度も優しく説明してくださった。が、また「もれるよう! 痛いよう!」
「朝、院長先生がお見えになったら尿管がとれるかもね。それまでのがまんですよ!」
同室に、私を含めて4人いた。苦しそうなせきが一晩中聞こえた。痰が喉につまっているらしい。私も苦しい。なぜ痰がでるのか何度も質問した。「それはね。全身麻酔をしたでしょう。そのためなのよ!」「痰を出しなさいね! がんばってね! 気管支から肺に入ると大変よ!」
彼女は肺炎、感染症、肝硬変などによるあらゆる危険から私を守り続けてくださった。小さな懐中電灯で目の中を時々調べ、血液の酸素量、酸素マスク、センサーの脱落など、気が遠くなるほどの処置を朝まで続けてくださった。若いナースの方も真剣そのもの、一寸した異変に目配りをしてくださった。
痰が止まり、尿管の痛みがとれたら「どんなに幸福かなあ!」と私はひたすら、朝と院長先生の姿を待ち続けたのである。
−手術−
喉の右を8センチくらい切り開いて、手術が進められた。
「動脈、複雑な神経、食道などの様々な器官を痛めないように、左右に分けて慎重にやります。拡大スコープを使用します。患部が1ヵ所ならば3時間で済みますが、3ヵ所あるので5時間はかかります。しかし、もし何か他に異常があれば、もう少し長くなるかもしれません」
手術前に岡院長先生から、何度も何度も丁寧に説明していただいたので、「不安、恐れは皆無」であった。
執刀は脳神経外科医の院長、岡伸夫先生、それに山下弘一先生が加わった。「私も今夜お手伝いします」と、笑顔のやさしい若い女性が、手術前に声をかけてくださった。麻酔科医の中田先生の事前の説明は、手術に対する私の精神的な負担を完全に吹き飛ばしていた。
これは、手術室という名の「聖域」で行われた、わが人生の何幕目かの大ドラマでもあった。
「院長の手術は完全です。神技です」と翌朝そっと教えてくださったのは、山下弘一先生とナースの方々であった。わたしは深くうなずいた。アーメンである。
話はさかのぼるが、3月1日(土)、少し緊張気味な面持ちで初診を受けた患者の私に、岡院長先生は、全身に温かさをにじませて応対してくださった。謙虚なその態度に触れて、「このお方に出会うためにここまできたのか!」と感無量であった。
長年、C型肝炎と肝硬変の治療に熱意を注いでくださった、主治医である東京慈恵会医科大学付属病院の消化器・肝臓内科の教授、戸田剛太郎先生やスタッフの方々、特に今、身近に毎週治療を受けている松浦知和先生のお姿と、岡院長先生が重なった。
(つづく)
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