特別な力は私には無い。
カリスマ性とは無縁な存在者。
後ろ楯も伝道費もない。
ないない尽くしの自分に一体何が出来ると言うのだ?
師の言葉を思い返し、狭い部屋の壁にもたれかかり考え続けた。
ある日ふらっと、横浜駅の西口に出掛けた。
息苦しさから逃れて駅の前に立ち尽くした。
誰かに声を掛けて、キリストの御言葉を伝えたい。
誘惑に駆られた。
地面から湧きだす人、人、人、の波。
雑踏の中で誰にも声も掛けられず、ただ人の流れに押し流されていく。
そんな自分に無力感を感じ、自己嫌悪に落ちてし まった。
後で考えると余りにも幼稚で、お粗末そのもの伝道の始まりであった。
だが、この経験は後日役立つことになる。
部屋に引き返すと、涙が溢れて止まらない。
その時、自然に祈りの言葉が、口から飛び出した。
主なる神よ!誓願を立てます。
今後、与えられる全ては、あなたのもの。
私のためには用いません。
我が行く道、あなたの御心に叶う道 を愚かなしもべにお示しください!
祈り続けて数日後、心に響きが来た。
『山に分け入り祈れ!わが愛し子、イエスに習い、断食して祈れ!』
私は箱根の大涌谷の馬酔木(あしび=つつじ?)の林の中に分け入り、断食祈祷を始めた。
この辺りは硫化水素ガスが噴き出す危険区域である。
私は風上を選び、雨風を凌ぐ格好の岩場を断食祈祷の場所にした。
7日間の断食祈祷の始まりである†
つづく
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