2009-12-16

天路歴程(46)出会い

古い話ですが、学生時代、同宿の学校の先輩方から、今で言うしごきを受けました。

飯炊き、洗濯、掃除など様々な雑用をこなしました。

口答えも出来ず、ただ黙々と、言われた通りにやりました。
この体験が私の目指す道にどのように影響したのか?後日、やっとこの意味が飲み込めましたが…

「若い時の苦労は買ってでもせよ」

亡き母の口癖でした。

しかし、目指す建築家の道は、遥か遠くの彼方!

どうしても解けない苦手な構造力学の問題集に四苦八苦していたときです。

出来の悪さを見兼ねた、ある同宿の先輩から、「君は頭が悪いんじゃない!物事を見つめる視点が根本的に欠けてる。柔軟性に欠けてる。停滞している!伸びる力の逆方向を向いている!だめだ!そんなことでは!」と、ひどく叱られました。

「学び、創造に、苦しみや行き詰まりはつきもの。君の常識が発想転換の邪魔をしている!君には非常識が必要だ。そんな気持ちじゃ、この問題集は解けないぞ!」

怖い、人使いの荒い、おっかない先輩だとばかり感じていた偏見を、私の欠点を一言で、木っ端微塵に打ち砕いてくれました。

まだ洗礼を受ける以前の話しです。

神様の導きは意外なところから始まりました。

先輩の隠れた人格、品格に触れて目覚めました。

それでも焦りがありましたから、なかなか思うように勉強は進みません。

唯一の慰め、それは下宿の窓から博多湾が一望できたことです。

あの何とも言えない優しい磯の香りが、粗末な下宿の窓から潮騒に混じって静かに部屋に流込んでれて来ます。

そんなある晩、うっかり下宿の2階の狭い階段を踏み外し、1階の土間に転げ落ちて気絶してしまいました。

一晩だけ近くの病院に担ぎこまれ入院しました。

何時も意地悪の下宿のお姉さんが一晩中付き添い介護してくれました。

これも若い苦学生には驚きでした。

大した怪我もなく助かりました。

見舞いに来てくれた先輩が「静養もたまには必要だぞ!階段からせっかく転げ落ちて助かったんだから、休め」 と言い残すと、見舞いのバナナを1本枕元に置いて、飄々と立ち去りました。

その後ろ姿に言葉にならない人の温もりを感じ、目頭が熱くなり自然に頭が下がりました。

最近、夢によく見ます。

怖くて優しい先輩は私が卒業した時は大阪市の建築課の技師を勤めていましたが、責任者になり、うれしい知らせを最後に、残念なことに早逝されました。

高岡先輩と呼んでいました。

あの頃は若かった!

人生が輝いていました。

道端の小さな石ころも、ダイヤモンドのように輝いていました。

私は忘れない!

あの日がいまも続いていることを†

学生時代のオショチ

3 件のコメント:

  1. 本当ですね。ただ何もいわず、優しい人より、冷たく厳しい人が、一番自分を、思ってくれて、一瞬の優しさに、感動する事が、いろいろ意見を、いってくれる友人に、囲まれて、生きていきたい自分も、そういう人になりたい。若いときには、気づかない。そんな時代を、私も懐かしく思い出しました。お体お大事にしてください。ヾ(^▽^)ノ

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  2. 何時も先生のお話は絵が見えます。追体験しているような気がしました。素晴らしい先輩がいらしたのですね。今後も私達に昔のエピソード語ってくださると有りがたいです。おつらさが少ない時お願い出来たらと思います。

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  3. パソコンを使われていないので、時々愛の樹のホームページ オショチブログを印刷してお持ちしている方がいます。昨日夕方久し振りに伺ってきました。
    いつも楽しみにして下さっておられるのですが、昨日もとても喜んで下さいました。

    「嫌な言葉、人のせいにする言葉、人を落としめる言葉、が溢れているこの世の中で、先生の言葉は全く違っている。心に素直にそのまま入ってきてくれて、すごいエネルギーを頂く。本当に有り難いです。 すごい方です!
    それもご自身のお体が大変にお辛い中で!このお言葉!溢れて出てくるのでしょうねぇ!
    本当に並の方ではないです!」
    と話して下さいました。

    この方は、北海道に住んでおられた若い時に、自然の中で、自然死だけでなく、撃たれて打ち棄てられている鳥や動物達を見て、心を傷め、何とか蘇らせたいとの深い思いを持たれ、その子達を剥製にすることを、全くのゼロの状況から、自身で編み出された方です。この方の剥製に出会って、その愛情を注がれた優しい剥製の姿!に、心を奪われました!今までの剥製への思いが吹っ飛びました。その後も伺う度にその思いを新たにしています。
    (今は、沢山の子達がテレビや映画で活躍しているとのことです)

    この方は、オショチの言葉に出会った瞬間に、この先生の言葉は違う!自分の打算の一切無い方の言葉だ!と、深く感じ入られたようでした。

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