2009-07-16

天路歴程(17)天に帰った獣医

極楽死を望む

四国の何処かのお寺に、極楽往生をお願いに行くツアーがあると聞きました。

歳を取ったら誰にも迷惑を掛けず、“ポックリ”あの世に行きたいと、誰もが密かに抱いている、世俗的な願望だと思います。

特に心身を痛めると、自分の往生際が気になるものです。

念仏を唱えてポックリあの世の旅に出掛けられたら!苦しまずに最高の人生をむかえられるでしょうか?

このお寺の住職に一度会いゆっくり話を聞きたいものです。

情けが仇に!

ある生活者がいました。

元、腕の立つ獣医師でしたが、ある時、北国の酪農家の家畜の健康状態を調べるために派遣されました。

偶然立ち寄った農家の一頭の牛に、蹄(ひずめ)の病気が見つかりました。

彼の役目は辛いものでした。

放置すると、健康な牛にも伝染します。

彼は規則に従い、役所に報告しました。

当然、薬殺の指示が出ました。

彼は情け深い人物でしたから、ためらいました。

家畜を育てる苦労と、飼い主の愛情を思い、薬殺に踏み切れないで悩みました。

「今すぐに薬殺する必要はなかろう?少し様子を見てからでも遅くはあるまいと自問自答しました」

さらに、農家のおばーさんが両手を合わせて必死に牛の命ごいをしました

泣きながらです!

彼は、おばーさんに、こう言いました。

「今日は一先ず引き揚げますが、何か異変が起きたら、直ぐ私に知らせてください」と。

それから1週間も経たないうちに、緊急の知らせが役所から届きました。

牛の蹄の病気が村全体に蔓延し、全て病気に侵された牛を薬殺処分せよ!との、厳しい、最悪の指示でした。

当然、彼の責任が厳しく問われました。

彼は、あの時見逃した牛のこと、涙を流しながら手を合わせた、おばーさんのことが、重苦しく、心にのしかかって来ました。

村に着くと、不安顔の酪農家の人々が集まっていました。

検診の結果は悲惨なものでした。

その日のうちにかなりの牛の命が、彼の手でを断たれのです。

やがて、真相が明らかになりました。

彼は重い責任を負わされ、石を投げられ、獣医師の資格を剥奪されました。

後はお決まりの転落の道が彼を待ち受けていたのです。



初めて、彼に会ったのは身寄りのない人々の施設でした。

仏教系の施設でしたが、私は自由に立ち入りが認められていました。

6人部屋の窓際のベッドに背中を丸めている姿に強く気が惹かれました。

似つかわしくないのです。

毎日、酒に明け暮れ、無断で女性の部屋に入り込み、だれかれなしに抱きついて回る。

彼の居場所は、そこにはありませんでした。

そんなある日、公衆電話が教会にかかって来ました。横浜市寿町の、通称ドヤ街からでした。

施設も追い出された彼は、必死にすがりついて来ました。

彼を苦しめる原因が、判明しました。

あの時、自分の手で薬殺した牛たちが彼の前で涙を流したというのです

賢い牛たちは、自分が殺されることを直感的に知り、涙をながして命乞いをした。しかし僕の手で彼らを殺した。

その良心の呵責が自分を含めて人間不信に輪をかけていたのです。

酒に酔えば、「牛が泣いてる」と、頭をかきむしり、悲痛な叫び声をあげました。

彼をドヤ街から救い出し、町田市のアパートに住まわせました。

だんだん彼は心の内を打ち明けてくれるようになりました。

それからほどなく洗礼を受けて、彼の心にやっと平安が訪れたのでした。

彼は自宅のアパート暮らしを自由気ままに楽しみ、私とほぼ同じ年齢で静かにこの世を去りました。

今はわたしたちの教会の共同墓地、見晴らしのよい、静岡県御殿場市にある富士霊園に静かに眠っています。

優しい獣医師さんは天国の牧場で仲良しの牛たちと楽しく暮らしていると思います。

彼が望んだポックリ寺は、彼の身近に、優しい心の中に在りました。

天路歴程を、彼なりの仕方で過ちを償い、歩んでいきました。

安易に責任のがれを避けることをせず、自分過ちに誠実に向き合い、苦しみながら、かれなりの償いを果たして、天国に国籍を移した彼に、神の御祝福を改めて祈ります!

アーメン、ハレルヤ†
木々の緑のなかで!

3 件のコメント:

  1. 私も、後悔ばかりのじんせいでも、死ぬときは、どんなかたちに、なるかわからないが、獣医の方のように、周りの人に案じられて、死ねたらとおもいます。ブログありがとうございます

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  2. 深いお話有り難うございました。洗礼を、お受けに、なられて、獣医さんは、どんなにか、心に、安堵感が、蘇ったことかと、思いました。世の中正しい考えと、思っても、泥沼に、落ちる、事たくさんあるんですね。町田での、生活にきっと、心より感謝されている事と思います。暑さますます、厳しいです。お体くれぐれもご大切に。心より祈念申し上げます。

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  3. 愛川おしょち様、愛の会の皆様、暑中お見舞い申し上げます。

    いつもブログなどを拝見させていただいております。

    ぽっくり死ねたらどんなに幸せだろうと私も思っておりましたが、極めて浅はかな願望であることが私なりに解りました。正しい道しるべをお示しくださいましてありがとうございます。

    今日僅かですが郵便振り込みでご献金させていただきました。フィリッピンで頑張って生きている子どもたちを思うと歳のわりに未熟な自分が恥ずかしいです。

    おしょち様のお痛みがやわらぐことを心よりお祈り申し上げます。

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